もし3年後、この会社を去るとしたら? 〜リーダーの本質的な価値観を引き出す問い~

もう20年以上前のこと。私が新卒で入社した会社は、入社して5年後に吸収合併され、会社としてはなくなってしまった。

当時はあまり意識していなかったが、今振り返ると、とても自由闊達な会社だった。上下関係にとらわれず、それぞれが自分の考えを主張し、相手の意見も受け入れる。困っている人がいれば自然に助け合い、チームで価値を生み出していこうとする。そんな雰囲気があった。

遅くまで残業していると、先輩から「ほら、早く帰ってデートでもしてこい!」と、冗談交じりに叱られたこともある。今だったら、別の意味で怒られそうな発言だが、、、(笑)。少なくとも「残業しているのが偉い」という文化ではなかった。

振り返ると、「あれが、あの会社らしさだったんだな」とよく分かる。もしかすると、それこそが、その会社が大切にすべきバリューだったのかもしれない。

ただ、在職中に、「あなたの会社のバリューは何ですか?」と聞かれても、当時の私はうまく答えられなかったと思う。組織が本当に大切にしている価値観は、日常の中に、オフィスの壁に染み入るように、自然に溶け込んでいる。会社がなくなり、時間が経って初めて、「あの組織は、ああいうことを大切にしていたんだ」と見えてくる。

だとすれば、会社が存続している中でバリューを考える際には、少し特殊な状況を設定する必要があるかもしれない。

「なくなるとしたら」という問い

たとえば、経営者にこんな問いを投げかけてみる。「もし3年後、この会社がなくなるとしたら、社員や取引先から、どんな会社だったと言われたいですか?」やや物騒な問いではある。

しかし、「会社がなくなる」と仮定すると、自分たちが失いたくないものや、最後まで残したいものが見えやすくなる。おそらく最初は、「社員を大切にする会社だった」「風通しの良い会社だった」とあたりさわりのない答えになるかもしれない。

ただ、そこで終わらせず、「具体的には、どんな場面でそう感じてたか?」と一段掘り下げると、答えの解像度があがる。

「上司より先に、隣の部署の人間が『大丈夫?』と声をかけてくる」

「失敗して怒られた社員を、だれかが必ず見ていてフォローする」

「取引先のニーズに応えるのはあたり前、常に想像を超える提案をしようとする」

一般論の一歩先、具体的なシーンにまで踏み込んだとき、その組織が本当に大切にしているものが姿を現してくる。

個人のコーチングでも同じ問いが効く

これは、個人のコーチングでも同じだと思う。たとえば管理職に「もし3年後、この組織を去るとしたら、周囲からどんなリーダーだったと言われたいですか?」と聞いてみる。

そして「そう言われるためには、あなたの組織はどんな状態になっていたらよいですか?」「その組織をつくるためには、どんなリーダーシップが必要ですか?」と問いを重ねていく。

最後に「では、あなたがリーダーとして大切にしたい価値観は何ですか?」と聞く。

最初から「あなたの価値観は何ですか?」と聞くよりも、その人にとってはるかに具体的な言葉が出てくることがある。価値観やバリューといった抽象度の高い概念は、正面から聞いただけでは、なかなか言葉にならない。

「それが失われたとしたら」「自分がその場所を去るとしたら」という状況を設定した方が、本当に大切にしたいものが浮かび上がってくる。

気づいてからでは、遅い

役職を離れてから、「卒業生」たちと「あのとき、自分はこんなことを大切にしていたんだな」と郷愁的に振り返るのも悪くない。

ただ、それでは遅い。大切にしたいものは、そこにいる間にしっかり言語化してこそ生きてくる。そして、それが組織の成長の軸となる。

できればその立場にいるうちに、自分が何を大切にしたいのかを言葉にしておきたい。それがリーダーとしての軸となり、迷ったときの判断基準になり、日々の意思決定を速める。

そして、周囲の人たちが「この人は、こういうことを大切にしている」と感じられるようになることで、リーダーとしての求心力にもつながっていく。

もし今、あなたが経営者やリーダーの立場にいるなら、一度この問いを自分自身に投げかけてみてほしい。「もし3年後、自分がこの場所からいなくなるとしたら、何と言われたいか?」

その答えの、さらに一歩先の具体的な場面まで言葉にできたとき、それがあなたの真のバリューとなる