組織サーベイで評価制度の数値が低かったら?~制度をいじる前に問い直すべき観点~

組織サーベイを実施すると、多くの企業で評価制度や報酬制度に関する項目が低く出ることがある。すると経営陣や人事担当者から、「評価制度を見直した方が良いのか」と相談を受けることが少なくない。

しかし、少し意外に思われるかもしれないが、私は評価制度や報酬制度のスコアが低いからといって、すぐに制度改定を提案することはほとんどない。

もちろん、目標設定のプロセスや評価基準が曖昧だったりする場合は見直しが必要である。ただ、組織開発などの支援を続ける中で感じるのは、評価制度や報酬制度への不満の原因が、必ずしも制度そのものにあるとは限らないということだ。むしろ、その背景には別の問題が隠れていることも多い。

評価制度への不満の正体
社員が評価制度や報酬制度に不満を持つ理由はさまざまだ。しかし、多くの場合、その根底には「自分はこれだけ貢献しているのに、それに見合った報いを受けていない」という不満が存在する。ここで重要なのは、社員が感じているのは必ずしも「制度自体の不満」ではない、ということ。

「自分の貢献が認められていない」「自分の頑張りが報われていない」という感覚が、サーベイ上では「評価制度」「報酬制度」への不満として表れているに過ぎない。向き合うべきは制度自体ではなく、「社員の貢献にどう報いるか」というイシューであろう。

評価制度は万能ではない
もちろん、社員の貢献に報いるために大きな役割を担っているのが、評価制度を中心とする人事制度だ。制度の中身はもちろん、運用も含めて適正化されていないと問題となる。ただ、現実的な問題として、評価制度だけですべての社員の貢献に報いることは難しい。

たとえば研究開発職を考えてみたい。営業職であれば売上や利益という形で比較的短期間に成果が見えやすいが、研究開発職は、成果が出るまでに数年を要することも珍しくない。新しい技術の開発や製品化は、2年後、3年後、場合によっては10年近くかかってようやく成果として結実することもある。

そういった場合、単年度で運用される評価制度は成果を評価するのに不向きだ。仮に成果が出た年だけ高く評価されたとしても、その評価だけでは長年の貢献に十分報いているとは言えないこともある。

以前、ある企業の方からこんな研究者の話を聞いたことがある。その社員は、毎年の人事評価は決して高くない。通常、目立つ成果もなく、組織を引っ張るリーダーというわけでもない。担当者の言葉を借りれば、「眠っているように仕事をしている」と。

しかし、彼は数年に一度覚醒し、大型プロジェクトを成功させる。そしてそのいくつかは、最終的には会社の屋台骨を支える事業へと成長していっているという。単年度の人事評価だけを見ると平均的な社員に見えるかもしれないが、長期的に見れば、その会社全体を支える極めて重要な存在となっていると言える。

そして、その研究者はこう語ったという。
「毎年の評価なんて気にしていない。研究を続ける機会と予算、そして論文を書く時間があればそれでいい」

人によって報いられた感は違う。人が価値を感じるものは多様である。たとえば、専門性を高める機会、新しい仕事への挑戦機会、裁量権、社内外での成果発表の機会、学習する機会、柔軟な働き方、周囲からの承認、良好な人間関係など、様々だ。特に近年は、その多様化がますます顕著になっているように感じる。

自分の価値観を捨てること
管理職の年代は、おそらく40代から50代が中心だろう。その世代は比較的一律の価値観の中で育ってきた。責任ある仕事を任されてそれを一生懸命やり、結果として給料や昇進といった報酬がついてくる。その経験を、無意識に部下へ当てはめてしまっていることがある。

しかし、今の社員は必ずしも同じ価値観では動いていない。キャリア観も違う、仕事観も違う、人生観も違うのだ。だからこそ、マネジャーに求められるのは、

「自分の価値観の基準を一旦捨て、相手が何に価値を感じるのかを理解すること」

ではないだろうか。

普段、営業サポートを担っているある社員は、こんなことを言っていた。「いま子育て中で、時間までに仕事を終わらせることで精いっぱいなんです。そんなときに、子育て経験のある先輩が気にかけてくださって、いろいろ声をかけてくれたり、私が定時までに仕事を終えられるように手伝ってくれるんですよ」

彼女にとっては、会社から与えられているもっとも大きな「報酬」は、仲間からの支援かもしれない。それは、仕事中心で過ごしてきた平成時代の男性管理職には、なかなか気づけないことかもしれない。

これからのマネジメントに求められること
社員一人ひとりの価値観や動機付けのポイントを把握するために重要になるのが、1on1や日常的な対話である。

近年、多くの企業で1on1が導入されている。話す内容に困る管理職も多いと聞く。ただ、「その社員が何に価値を置いているのか」「会社として社員の貢献にどう報いるか」という観点で、問いを頭に浮かべながら、いまの仕事のこと、プライベートなことなどを聞いていくと良い。そのうちに、魚釣りのように、何かがひっかかり、話を膨らませられるはずだ。

「この人は何によって動機づけられるのか」、それを理解した上で、一人ひとりに合った形で貢献に報いていく。これからの時代に求められるのは、そうした個別対応型のマネジメントなのだと思う。

組織サーベイで評価制度や報酬制度のスコアが低かったとき、私たちはつい制度改定に目を向けてしまう。しかし本当に考えるべきなのは、「社員の貢献に対して、組織としてどのように報いているのか」という問いだ。

何も評価を適正化し、報酬をあげることばかりが報いることではない。日ごろのマネジメントの中にも、社員の貢献に報いる方法は数多く存在する。そのことに気づくことが、エンゲージメントを高め、組織を変える第一歩になるのではないだろうか。