変革を阻む『取引コスト』を低減させる方法~企業の変化させる組織開発の3つの観点とは~
営業をしているとこんな経験をすることがあるのではないでしょうか。クライアントから自社が提供しているシステムの改善を強く訴えられ、自分としてもその内容に納得し、これを改善すればユーザーの利便性は上がり製品の優位性も高まることが予測される。でも、短期的な利益を重視する上司や恒常的にマンパワーの足りないシステム部門を思い浮べると、言い出すことができず、結果としてその改善要望がうやむやになってしまう。
このように本来会社にとって必要な改革をを進めなくてはいけない場面で、それを逡巡してしまうというのは、営業職のみならず、その他の多くの職場において、さらに経営の意思決定においても、頻繁に発生します。
昨今はVUCA(※1)の時代と言われ、企業は目まぐるしく変化する外部環境に、素早く反応し変化していく必要があると言われております。しかし、先の事例のようなことがあらゆる機能で起こってしまうと、企業の改革は全く進まず、時代に取り残されてしまうことになります。
この企業内のメカニズムを菊澤研宗氏は、「指導者の不条理」という書籍の中で解説しております。
たとえ変化した方が良いと思っても、変化・変革するためには、多くの関係者に動いてもらう必要がある。それゆえ、多くの人と交渉し、説得する必要があり、そのために膨大な取引コストが発生する。(中略)ほとんどの場合、下図のようにより効率的で倫理的に正しい方向への変化・変革することによって得られるメリットよりも、その変化・変革に必要な人間関係上の取引コストの方が大きくなるのである。

菊澤研宗.指導者の不条理.PHP新書,2023,76p.
組織として変革を進めるには、「その変化に必要な人間関係上の取引コスト」を低くし、「効率的で正しい状態へ変化することで得られるメリット」を常に認識していくことが大切で、つまり上の公式の不等号を逆転させる必要があります。そして、これを実現するには、組織開発によって人間関係の取引コストを低くしておくことが大切になります。つまり、部署内、部署間、さらにはボードメンバーの間での意思疎通を変化を受容できるように健全な状態にし、変革を進めやすい状態しておく必要があるということです。以下に3つの観点で、具体的な取り組みの方向性を提示したいと思います。
●部署内の関係性
部署内では、主に上司・部下の関係が大切です。上司から部下に一方的な指示、伝達するコミュニケーションスタイルを改め、定期的に1on1を実施し、部下がかかえている課題をヒアリングしていくことが求められます。また、その課題を1on1で率直に話せる心理的安全性(※2)も重要で、普段から上司が部下の信頼関係の基盤を作っていくことも大切でしょう。
●部署間の関係性
部署には組織特有の事情があり、利害が対立する場面があります。それを避けるためにも、会社としてのビジョンやバリューを共有しながら、それぞれの部署が会社の機能として何をすべきかを確認しておく必要があります。また、社内異動を活性化することも大切で、それにより様々な部署の経験者が輩出され、より広い観点から建設的な議論が展開できるようになるでしょう。
●経営ボードの連携
会社は常に外部環境の変化に目を向け、変化を先取りしつつ変革をする力をつけなくていけません。そのために、既存の事業を大切しながらも、培った能力を融合して今後どのように環境に打ち勝つか、ビジョンや戦略をボードメンバー間で共有し、発信していく必要があるでしょう。それが、前述の部署内及び部署間の効果的な連携する上での「軸」になります。
このような場面で組織開発が効果的に進んでいけば、組織の変革能力は自然と培われていくでしょう。それによって、会社全体で変化で得られるメリットを改めて認識され、人間関係の取引コストを低く見積もり、あらゆる場でオープンな対話ができるようになっていきます。
組織開発は、ある意味、組織の変革を推進する上でのツールとしも位置付けられます。経営戦略の優位性ももちろん大切ですが、それを具現化するための組織開発はそれと同等、それ以上に重要と言っても良いかもしれません。組織開発によって人間関係に取引コストが低くなれば、コミュニケーションが活性化され、対話の中から変革のヒントが自然と創発されていくでしょう。
【用語解説】
※1)VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、現代の予測困難な社会情勢を表す。
※2)心理的安全性:チーム内で誰もが安心して発言・行動できる状態を指す。組織の活性化に不可欠な要素。


